東京藝術大学を目指すきっかけとなったのはオーケストラでした。中学一年生の私が邦楽のサマーキャンプに参加し、そこで藝大に入学されたばかりの箏の方に出会いました。「今度、藝祭で演奏するので是非きてくださいね」とお誘いを受け、初めて東京藝術大学に足を踏みいれたときのことです。ビックバンドの演奏をやっていると思えば、雅楽やガムランの演奏が続き、ホールではオーケストラや邦楽が並行して演奏されており、「なんて素晴らしい場所だろう」と感動。その中でとても気になる公演がありました。あの武満徹の「ノヴェンバー?ステップス」を6ホールで演奏されることを知りました。尺八は先輩の柴田潔(旺山)さん。生で聴くのは初めてということで、心躍らせながら聴きに行きました。
「この学校に来ればこういったことが出来る!」その思いから、私のオーケストラとの共演の夢が始まりました。
高校に入り吹奏楽部に入部しフルートを担当し、五線譜を読むことを覚え、大学に入ってからは洋楽の友人を作るべく、洋楽の授業を履修し、そこで仲良くなった友人たちとオーケストラを集め、4年生の藝祭で廣瀬量平作曲の「尺八とオーケストラのための協奏曲」をやろうと選曲、ちょうど学校にいらしておられた廣瀬先生にお話しを伺い、パート譜を借りることができたのでした。6ホール取りでは、作曲科の友人たちが「こういった企画こそやるべき」と応援してくれたお陰で無事にホールも取れ、なんとか本番に漕ぎ着けたのでした。
その後もさまざまなコラボレートを重ねてきましたが、やはりオーケストラとのセッションは自分の「やる気」の原点になっています。2015年にサントリーホールで山田和樹さんと横浜シンフォニエッタを迎え、3時間のオーケストラとの公演を実現、それから10年後の今年、やっと母校の藝大での演奏が実現できることとなりました。今回は改めて多くの方々のご尽力のお陰で、山田和樹さんと藝大フィルハーモニア管弦楽団との共演が叶います。
夢の実現は多くの積み重ねと多くの人々の力があってこそ。私の出発点は藝大から始まっております。この学校の持っている力、そしてここにいる人々の力はまだまだ計り知れません。微力ながら、次の世代にこの思いを伝えて行き、そして、次なる表現者が次々と現れてくれることを願っています。
デビュー15周年のサントリーホールでのコンサート(2015年8月)
山田和樹指揮、横浜シンフォニエッタとの共演
Rémi Durupt 指揮 Orchestre National de Bretagne 藤倉大作曲「尺八協奏曲」のフランスでの世界初演(2022年4月)
まだ、コロナ禍で戦争が始まった頃、乗るはずであった直行便が10日前にキャンセルとなり、トランジット便をなんとか取り来仏
乗るはずのTGVが鹿とぶつかり運休などいろいろと肝を冷やした旅でした
写真(トップ):1994年、大学4年のときの藝祭にて、オケを集めて廣瀬量平作
コンサートマスターは戸澤哲夫さん、指揮は城谷正博さん。
【プロフィール】
藤原道山
東京藝術大学 副学長(伝統継承?150周年担当) 音楽学部准教授
東京藝術大学卒業、大学院音楽研究科修了。皇居内桃華楽堂において御前演奏(宮内庁主催)。安宅賞、芸術選奨文部科学大臣賞、松尾芸能賞新人賞、服部真二音楽賞ほか受賞。伝統音楽の活動と共に、尺八の可能性を求め、ソロ活動の他、音楽制作や監修、洋楽器とのユニット、尺八アンサンブル「風雅竹韻」の監修、メディア出演、音楽雑誌連載など多角的な活動を展開。小学及び中学音楽教科書の執筆及び出演、後進の育成など普及?教育活動にも力を注ぐ。2025年11月30日に東京藝術大学 奏楽堂にてオーケストラとのコンサートを企画。
現在、公益財団法人都山流尺八楽会所属?竹琳軒大師範。都山流道山会主宰。公益社団法人 日本三曲協会会員。